揺らぐ自己を許容する

2018年のノーベル賞を受賞した、がん免疫療法。
T細胞表面のPD-1が、がん細胞表面のPD-L1と結合することで抑制されるというしくみから、PD-1抗体によりその結合を邪魔することでT細胞の抑制を解除する、という治療法。


これに関して、そもそもなぜ進化の過程でT細胞が抑制されるスイッチであるPD-1のような分子を持つようになったのかについて、日経サイエンス2018年12月号の記事中で仮説が述べられています。
それが「揺らぐ自己を許容する」というもの。


まず、PD-1の存在意義として考えられるのが「過剰な免疫反応を抑える」ということ。
しかし、PD-1をノックアウトしたマウスでは早々に自己免疫疾患が起こるようなことはなく、老齢期になって始めて自己免疫疾患が起きるそうです。
それはなぜなのか。
その一つの考え方として、PD-1の役割は、「変異した自己」の細胞を「非自己と認識しないように、しきい値を下げる」ことにあるというのです。
これ、めちゃめちゃ面白い話だと思いました。
通常は、「しきい値が大きい」ので、「変異が蓄積した細胞も自己として許容」する、つまり「揺らぎを許容」しているわけです。
PD-1がノックアウトされて、このしきい値が下がることによって、老化して変異が蓄積した細胞が攻撃されるリスクを負いながらも、同時にがん細胞のような「揺らぎ」に収まってしまうような細胞を攻撃できるようになる、というわけです。


これらはまだ単なる一仮説の域を出ないようですが、「自己と非自己の識別」という免疫の根幹が、このような仕組みで進化の過程でしきい値を変えてきたのだとしたら、見事という他ありません。