メガネと色識別アプリ

少し前に、ある方のFacebookの文章で「BTB溶液の色の変化」に関する実験が、色覚多様性の観点からユニバーサルデザインになっていないというものを見ました。
これに対して、コメント欄で「色を識別できるアプリ」の使用の提案がありました。


以前に、RIMSEの連載記事中で、こんな文章を書いたことがあります。


”ヒトに関する遺伝子変異は,疾患関連遺伝子が紹介されることが多かったように思います。
これが,メンデルの法則の 「2種類の対立遺伝子」というイメージとあいまって,基本的に遺伝子は「正常」と「異常」に区別されるという誤った理解に結びついてしまうと,「異常」なものを社会から排除 するような思考につながりかねません。
しかし,ここで紹介した色覚の例のように,ヒトの多様性はそのような単純なものでは決してありません。
 

こうして考えてみると,「色覚異常」という表現はヒトの色覚の多様性を表現するのにふさわしい表現ではないように思えます。
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構では,こうした状況を踏まえて,ヒトの色覚多様性をC型,P 型,D型などの「色覚タイプ」として表現することを提唱しています。
割合が最も多いC型を「一般色覚」と呼び,C型色覚以外を色の配慮の不十分な社会における弱者として 「色・弱者(しきじゃくしゃ)」と呼ぶそうです。
視力が悪い人を「障害者」として区別することはほとんどないと思います。
それは,眼鏡やコンタクトレンズなどで,社会生活を営むうえでの困難を軽減できているからです。
そうであるならば,「色・弱者」に対して,正しい知識を持ったうえで配慮のあるカラーデザインを意識することができれば,同じ効果が期待できるのではないでしょうか。
大切なことは,ヒトの多様性を生物学的な知見を持って理解することであり,お互いの違いを認め合って,自然と配慮し合えることです。
ヒトの多様性を学ぶことは,よりよい社会を築くための大切な一歩なのです。”


連載「ヒトの生物学を教えよう」
第2回 色覚から考えるヒトの‶多様性"(2015年8月) 


視力が悪い人にとっての「メガネ」が、ある色覚特性をもった人にとっての「色識別アプリ」にあたります。
テクノロジーによって「社会生活を営むうえでの困難を軽減」できるのであれば、そのような技術はどんどん使っていったらいいと思います。
これから、「メガネ」にあたるものがますます増えていくことでしょう。
それが、「新たな差別」や「新たな階層化」につながらないことを願いつつ、技術の進展に期待します。