ベネッセ「探究」研究会メモ

2018年9月22日 ベネッセ主催研究会
学校組織で取り組む『探究』の指導デザインを考える研究会~『探究』の導入による学校改革の可能性~
@新宿ベルサールセントラルホール


メモ


【冒頭のあいさつ】
新しい世界に進むときは「全員が素人」である。
やるのであれば「勇気ある素人」でありたい。


「学習者を主体とした学び」を軸にしている。
かえつ有明の卒業生と広尾学園の現役生に話を聞く機会を設けた。


【私たちは探究で何をめざすのか?~生徒のAgencyを引き出す学びへ~】
小村俊平(OECD 日本イノベーション教育ネットワーク事務局長)


新学習指導要領の中核としての探究
教科横断的な探究だけでなく、教科の見方・考え方を生かした探究も導入される。
一部の授業に探究を導入するのではなく、探究を核にしたカリキュラムマネジメントが期待されている。


探究とは、生徒が主体的に課題を設定し、教科や教科横断的な視点から、問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく、一連の学習方法の総称。


知識の習得→活用→探究の段階論ではない。
サイクルが回っていくことが重要。


●探究をとりまく不安の声
知識を習得する時間が足りなくなるのではないか?
大学入試の役に立たないのではないか?
うちの生徒には難しいのでは?
一部の先生にしかできないのでは?


大学に入るための学びではなく、大学生・社会人になってからも成長し続けるための学び


OECDでは2030年をターゲットに議論している。
しかし、今15歳の生徒は、2030年にはまだ27歳。


上海では、1990年から2010年の20年で劇的な変化があった。


OECDでの議論
Student-Agency
よりよい社会をめざして、責任をもって社会に参画し、社会を変革する力
ウェルビーイング(健やかさ・幸福度)


新たな価値を創造する力
責任ある行動をとる力
対立やジレンマを克服する力


AAR(Anticipation-Action-Refrection)サイクル
見通しを持ち、行動し、振り返りながら学ぶ、トライアル&アプローチ


●2つの落とし穴
・教えすぎ
生徒が迷わないように必要な情報を与える。
生徒が黙っていると、思わず口を出してしまう。


・何もしない
毎回、別の先生が引率、状況を把握していない。
生徒は活動しているが、先生は内職している。


Agencyを発揮するのは生徒だけではない。
大人も一緒に、Co-Agencyを発揮していく。


OECD Education 2030では高校生・大学生も参加している。
OECD日本イノベーション教育ネットワークの研究会でも、高校生が参加している。


中教審 教育課程部会 児童生徒の学習評価に関するWG
高校生・大学生・新卒社会人が「評価される観点」で発言した。


●全国高校生ソーシャルビジネスプロジェクト交流フェア
「高校生レストラン」がきっかけ。
そのような取り組みを全国に広めたい。


ある年のビジネスプラン
授業で松葉に興味をもった。
落ちている松葉を拾う(原価はタダ)
静岡大学と共同研究を行い、松葉の効用について研究した。


探究の先に「生徒のどんな姿」が見えるかが最も重要。


【かえつ有明中学・高校】
佐野和之(かえつ有明中学・高校)
+卒業生(大学1年)


「場」をつくるときに、話し手だけではなく、全員でつくっていく意識が重要
探究は「安全・安心な場」が大事。


3年間、「プロジェクト科」という形で教育課程に入っている。
その1年生の実践を紹介する。


●教育理念
一人ひとりが持つ個性と才能を生かして、より良い世界を創り出すために主体的に行動できる人


●6年間で身につける資質・能力
A学び方を学ぶ
B自分軸を確立する
C共に生きる


●探究を進める前に
Doingばかりに目がいっていないか、Beingに意識は向いているのか。
※教員自身のBeingを考える必要


●自分軸の確立
他者からの期待、常識、経験によってすりこまれた思い込みを手放し、自分自身が本当に大切にしている思いに自覚的になる。


共感的コミュニケーション
自分は何者かと問い続ける(Who am Iの表現)


●学び方を学ぶ
探究に有効な思考ツールを活用する場面を、授業デザインの中に組み込む。そのプロセスを通じた経験から、理論とその実践感覚を獲得する。


パターンランゲージの活用等


●共に生きる
全体性の感覚、社会や世界とのつながりの中で自己実現の喜びを感じる。他者と協働して新しい未来を創造する。


ダイアログ
多様な価値をもつ方々との交流


●理論
U理論
学習する組織


●担当教員
自分たちのbeingを耕すこと
常識のとらわれをほぐすこと


【卒業生のプレゼン】
高校1年のときは、「固定概念を壊す」ことがテーマ。
自分の外の世界ではなく、自分の内面に気付くように言われ続けた。
これは本当に大切だと思った。


まずは「話を聞く練習」
人の話を聞くときに、無自覚に相手をジャッジしながら聞いている、ということへの自覚。
偏見を持たないで聞く練習。


ダイアログで、最初は「あなたはこうすべき」と相手のことを言っていた。
文化祭の振り返りが転換のきっかけ。
大赤字を出してしまった。
その振り返りで「誰かを責める」ことばかりやってしまった。
でも、あるアクティビティを通じて、「自分は~」という語りになっていった。
そうして、言いたいことも言えるし、安心・安全な場になった。


自分は今どんな気持ちか、自分はどう在りたいか、ということを問いかけられ続けた。


高校2年生になると、プロジェクトの最初の授業で「なんでもいいから好きなことをプロジェクトにして」と言われた。
何をやっていいかわからなくて戸惑った。
「自分の大切にしている価値観」を出すワークをやってみた。
それが似ている人とのチームを組むようにした。
「健康的なラーメン」をつくるプロジェクト
おいしいけど、カロリーが気になる。なんとかできるか、というプロジェクト。
学校外の社会人に声をかけて協力を求めた。
キッチンカーを借りたり、協賛してくれた方から野菜をもらったりした。
人に協力してもらうと、「自分たちのプロジェクトにならなくなってしまう」という不安をもつメンバーもいた。
キッチンカーを本当に使うべきか、でもめた。
ここで、1年の時のダイアローグが生きた。


自分の未来について考えてみようという授業
過去と現在は埋められたが、未来がどうしても埋められなかった。
そして、学校の外に出て、色々な社会人と触れられる経験を求めた。
そこで出会ったNPOが「社会人を学校に呼ぶ」というもので、そこで活動した。
自分で企画書を書き、職員会議でプレゼンまで行った。


今は「教育」に興味がある。
小学生や中学生の目がキラキラしている瞬間を目にしたい。
でも、探究をやったから教育に興味をもったわけではない。
探究をやって、そこから内省して、さらに外に出ていった結果、教育に興味をもった。


現在は、NPOで活動している。


【医サイが進める研究・探究的な学び】
広尾学園中学・高校
木村健太
+生徒(高校3年生)


●医サイが進める3本の柱
授業
研究活動
中高大・産学連携


ツールとしてICTと英語


●生徒たちが策定した研究テーマ
P53遺伝子ノックダウンによるゾウiPS細胞の作製
プラナリアにおける神経筋接合部の再生
地震のスペクトル解析
ユークリッド関数の平行移動に関する方程式の解について
バナジン酸ビスマス/導電性カーボンを用いた光電気化学的水素合成
p型半導体を含む正極触媒を用いた色素増感太陽電池の高電圧化
などなど


【生徒のプレゼン】
本当に楽しい。
世界のまだ誰もやっていないことをやっているというだけで本当にワクワクする。


●学び方を学ぶ
「色素増感太陽電池」についてウェブで検索しても、なかなか情報が出てこない。
もっと信ぴょう性の高い情報はどうやったら得られるか先生に聞いたときに学術論文の存在を知った。
しかし、それらは英語で書かれていた。
でも、どうしても知りたいから英語を頑張るモチベーションになった。
また、研究を深めるために物理を一生懸命学ぶようになった。
周囲の生徒も似たようなことを言っている。


●興味関心・視野の拡大
もともと宇宙に興味があったが、色素増感太陽電池の研究をしてみると本当に楽しい。
色々なイベントにも出ていくようになった。


●HP MARS HOME PLANET
人類が100万人火星に移住したときに必要となるインフラを考えるコンペティション
食物、酸素etc…
植物に詳しい生徒、理論物理に詳しい生徒などを誘ってチームを組んだ。
それぞれ違う分野で頑張っている生徒を集めて取り組むと、高校生ではトップだった。
でも、上に大学生で2チームあった。
そのチームに勝てるとは思えなかった。大学生のもっている知識や技術がすごいと思った。
話しているうちに、高校生と大学生で混合チームをつくった。
結果的に最優秀賞をとることができた。


研究やプロジェクトにおいて、自分の強みや弱みを把握することが大事だと思った。
以前にベネッセのGPSを実施して自分の強み・弱みを知ることができたのはよかった。


【再び木村先生】
研究すること、学ぶこと、全部楽しい!


●得意を深く掘り下げてから横に拡げる
※一般的には弱い部分を埋めるように努力してしまう。つまり、生徒はずっと嫌なことをやらされている構図になるのではないか。


学問の「楽しさ」が最優先


「他分野への興味」拡張


「転移可能な力」を意識


試薬調整のためにはモルの計算が必要。
色々な計算がしたくなれば情報の授業が大事だ。
何かを表現するには国語の授業が大事だ。
こんな風に、「生物」の研究をきっかけにして、他の学習にも拡がっていく。


●本物からのbreakdown
「本物」から入る
中等教育の単元レベルへ分解・誘導
適切なタイミングで適切な教材を


※おいしいハンバーガーをつくりたいなら、まず「おいしいハンバーガー」を食べてみればいい。
それを、レタス、チーズなど、それぞれの素材を詳しく掘り下げることを続けていると、そもそも何のためにこれをやるのかを見失いがち。


※生徒がもった「問い」を、教科書の内容と接続してあげるようなサポートは意識している。


●チームがつくる専門的で多様な環境
研究指導教官は、自分の専門性を生かして指導する。


リソースの再配分(アダプティブな環境を可能に)


スペシャリストの役割分担、小さく初めて適宜拡張


【三田国際学園中学・高校】
田中潤


●12のコンピテンシー
リーダーシップ


●理念
知・好・楽
これと、21世紀型スキルとの掛け算


自己認識→自己開示→自己表現→自己実現→自己効力感


●探究において組織がプロデュースする体験
1達成体験
自分自身が何かを達成したり成功した経験
2代理体験
自分以外の他人が何かを達成したり、成功した経験。
3言論的説得
自分に能力があることを言語的に証明されること、言語的励まし
4想像的体験
自己や他者の成功体験を想像する


●探究の分類
「がっつり探究」
ハワイCBL、長期留学、理系研究など
「簡単な探究」
仮説をもたずに気楽に
GPS(広島修学旅行を題材に探究へ)


今あるものを少しずつ変えながら活用していく。
あるものを組替えながら状況に合うようにしていく。


●基礎ゼミナール
希望する先生が開講する。
例えば、コンビニでアイデアソンを行って、そこから様々なゼミナールが開講される。


成績はつけない。


【埼玉県立大宮高校】
畑文子


●2013年からの学年での取り組み
理数科で探究を行っていた。
これを何とか広げられないかと考えていた。
2013年入学生から探究を取り入れた。


タフな生徒を育てたい


3年間のふりかえりとして、達成感はあるけれど、まだまだ改善できる要素がある。
この学年ではやったけれど、この学年だけになってしまっている。


●総合的な学習の時間
「弱み」「強み」の変化を見る指標を検討
教科・科目のアプローチ方法として検討
対話力の強化方法を検討
言語活動/言語技術
論理実験/思考実験
評価法


●「高大接続検討チーム」2016の結成
教頭・進路・英・数・国・有志


●2017年→2018年へうまく継続できなかった原因
・教員「意識」のばらつき
・教員「スキル」の底上げがなされない
・日常的な授業スタイルとの乖離
・生徒との連携がない
・保護者との連携がない


●うまくいかないのは誰かのせいではない
キーワードは「日常化」
「習慣」は当事者(生徒・教師・保護者・地域の人たち)みんなが作るもの。


【都立八王子東高校】
島津聡


2017年6月に「探究プロジェクトチーム」発足
グランドデザインの検討
先進校視察
探究活動の全体設計
カリキュラムの検討


2018年4月「探究部」の設置


1年次 
探究基礎
課題解決プロジェクト
etc…


「問い」出しと学びの深め方
「問い」から始まる学習の習慣化
調査研究活動と自己理解
ここまで1年で。


1学期は週時程内で1時間「探究基礎」、さらに「国語探究」が1時間
→ポートフォリオの蓄積


「問い」を探究可能な「課題」に育てる事前指導