人生、最初で最後の“恩師”松田先生

3月に東京大学を退官された松田良一先生(現在は東京理科大学)へ向けて書いた退官記念のメッセージ。
素晴らしい「師」と出会えました。
また、このタイミングで読み返してみて、「小さくまとまることなく、夢は大きく、物怖じせず、権力に阿ることなく、自分の目で見て、自分の信じた道を勇気をもって歩んでいきます」という自分の言葉に、自分が勇気づけられます。


【人生、最初で最後の“恩師”松田先生】
僕は中学時代に教師を志しました。
その思いは高校に入っても変わりませんでした。
しかし、周囲の大人が背中を押してくれることはなく、「なぜ教師なのか?」と疑問を投げかけられ続けました。
高校の担任教師に、「教師にだけはならない方がいい」と諭され、教師自身が自分の職業に誇りを持てないその姿に非常に落胆した覚えもあります。
当然、将来について真剣に語り合える大人も友もなく、基本的に自分一人の世界で生きてきてしまっていました。


大学に入ってから、僕のその落胆は大きくなりました。
「ここは研究者を育てるところである」といった話をされることが多く、教師になろうという人間にとっては居心地の悪さを感じることもしばしばでした。
学部のカリキュラムも、教員免許を想定したものになっておらず、なかなかに苦労した記憶があります。


そんな失意の中で、松田先生と出会うことができました。
僕が教師を目指しているとお伝えしたところ、先生は「君、教師になりたいの?いいね」と、さらっと仰いました。
本当に些細なことかもしれませんが、その一言は、人生で初めて教師になる夢の背中を押していただいた瞬間でした。
松田研究室に入ってこの人の下で学びたい、そう強く思いました。
しかし、当時学科内の成績が「最底辺」だった僕は、人気の松田研には入れないだろうと半ば諦めていたのです。
ところが、なぜか幸運に恵まれ、2002年4月から松田研究室で3年間お世話になることができました。
これを縁といわずしてなんというでしょうか。
その間、松田先生の人柄、特に類い希なるバイタリティーと教育に寄せる情熱にいつもたくさんの刺激をいただきながら日々を過ごしました。
また、同期には嶋田君がおり、彼とともに松田研という場所で3年間を過ごせたことも、素晴らしい縁をいただけたと思っています。


先生との思い出は数え切れません。
「高校生のための特別講座」では、毎週土曜日の午前中に松田先生とご一緒させていただき、様々な先生方のお話を伺いながら、時間を共有することができました。
これはとても貴重な経験であり、大切な思い出です。
何の見返りもないこの仕事を立ち上げ運営されているお姿を間近で見続けることができ、あらためて松田先生の教育に対しての純粋な情熱に触れ、大きな刺激を受けました。
今では先生のご尽力で講座は大きく成長し、全国の多くの高校生に刺激を与え続ける素晴らしい「場」になっています。
先日の、松田先生の高校講座での「最終講義」も参加することができ、先生と二人で講座を運営していたあの頃を思い出し、また今の変わらぬ先生の雄姿を拝見し、胸が熱くなりました。


研究の現場での厳しくも温かいご指導も、今の自分につながっています。
僕が大学院への進学で悩んでいたとき、「教師になるにしても、修士までは進んで研究というものをもう少し見た方が絶対にいい」と背中を押してくださいました。
決して真面目で優秀な学生ではなかったと思いますし、研究成果で先生に報いることはほとんどできなかったので、ここで書かせていただくのも申し訳なく思うのですが、でもやはり研究の現場に触れることができたのは、本当に貴重な時間でした。


日常生活での、先生の豊富や知識と、常人には思いもよらない発想力、人をひきつける話術も、全て今の自分の糧になっているように感じます。
こういう教師になって、多くの生徒を刺激し、成長させていきたいと思えました。
松田先生は僕の遠くて大きな目標です。


僕の人生において、真に「恩師」と呼べる方は、最初で最後、松田先生だけです。
先生のお陰で様々なことを学び、考え、今こうして頑張ることができています。
いくら感謝しても感謝しきれません。
今後も少しでも日本の生物教育と未来を担う高校生の力となり、一つでも多く松田先生によい報告ができるよう精進していきます。
それが自分なりの恩返しではないかと思っています。


松田研出身者は、ユニークな進路を選び、ユニークな活躍をしている方が多くいます。
「弟子は師匠に似る」といいますが、「松田研の空気を吸った」ことが、少なからず影響しているように思えてなりません。
僕自身は、公務員という最も保守的な進路を選んでいますが・・・間違いなく、確実に、多大なる影響を受けています。
「松田チルドレン」として、小さくまとまることなく、夢は大きく、物怖じせず、権力に阿ることなく、自分の目で見て、自分の信じた道を勇気をもって歩んでいきます。
「松田先生の弟子」であることを誇りに感じながら、松田先生にも胸をはって「あれは僕の教え子なんだ」と仰っていただけるような活躍ができればと、いつも思っています。
今後とも、お世話になってしまうことも多々あるかと思いますが、末永くご指導、ご助言をお願いいたします。