自分を信じて、ちゃんとあきらめる

試験当日に関して、3年生に向けて書いた文章です。
明日はいよいよ国公立大学の二次試験。
悔いのないよう、自分の力が発揮できることを願っています。

●自分を信じる
自信とは、「自分を信じる」と書きます。
試験当日は、とにかく自信を持つ、つまり自分を信じるしかありません。
どうすれば自信が持てるでしょうか。
ここまで積み重ねた日々を思い出してください。
積み重ねた努力を思い出してください。
ここにたどり着くまでに感じた様々な感情を思い出してください。
それらを乗り越えて、今こうして試験会場にたどり着き、受験をするのです。
頭に浮かんだ様々が、すべて自分を後押ししてくれるはずです。
それが自信なのだと思います。

●自分を生きる
積み重ねた日々を思い返したとき、お世話になった人々の顔が浮かんできた人もいるかもしれません。
家族、友達、先輩・後輩、先生etc...
その人たちのために頑張ろうという気持ちが沸き上がるかもしれません。
でも、自分の人生は自分のもの。
誰かのために頑張らなくてもいいんです。
ただ、自分が悔いのないように、自分のために頑張ればいいんです。
周囲からの様々な期待や心配は、ありがたいけれど、ときにプレッシャーにもなります。
感謝の気持ちを忘れる必要はないけれど、期待や心配はひとまず忘れてしまっていいんです。
もちろん、自然な自分が自然に思い浮かんだ誰かの顔を力にして試験に立ち向かうのはとてもいいことだと思います。
自分の力になるものは力とし、そうでないものは忘れていい、ということです。
自然体の自分で、自分としっかり対話して、自分を生きてください。

●深呼吸
緊張はすると思います。
緊張しないようにすると、もっと緊張するかもしれません。
だから、緊張したら、その緊張と上手に付き合ってください。
緊張している自分を「自分緊張しているなぁ」とトリの目で感じましょう。
試験開始とともに、周囲の受験生はものすごい勢いで紙をめくり、鉛筆を動かすことでしょう。
そのざわめきは、時に緊張を増幅させてしまいます。
だから、試験開始の合図とともに、すぐに動くことなく、耳をすませて「緊張している周囲の受験生」をトリの目で感じましょう。
そして、「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせながら大きく数回深呼吸をしてみましょう。
緊張しないのは難しいと思いますが、緊張と上手に付き合えるかもしれません。
やってきた成果を思う存分出し切れる日です。
「やってやろうじゃないか!」と思い切り楽しんでください。

●ちゃんとあきらめる
わかるものはわかるし、わからないものはわからない。
覚えているものは覚えているし、覚えていないものは覚えていない。
それだけのことです。
それを、落ち着いて、あきらめるべきものはちゃんとあきらめてください。
そして、「今の自分にできること」に注力してください。
一番悔しいのは、完全にできたはずの問題をケアレスミスしてしまうことです。
「できることをやる」というのは、「できることだけをやり、できないことはやらない」ということです。
でも、これは緊張感の中ではとても難しいことなのです。
「できることをやる」だけでいいのです。
できることができる、それを願って応援しています。
ここまで努力してきた皆さんなら、それが合格につながるはずです。

●プレッシャーとの向き合い方
以前にこんな生徒がいました。模試や問題演習でいつも9割を確実に取っていたにも関わらず、本番だけ7割に届かず。
しかも、1科目だけではなく複数科目で同様の結果に。
なぜこんなことになってしまったのでしょうか?
一つの可能性として、「取れて当たり前」というプレッシャーに押しつぶされたことが挙げられます。

メジャーリーグのイチロー選手が年間200本安打を継続していたときの話。
一打席一打席が、ものすごいプレッシャー。
しかもそれが一年を通して続く。
そこから逃げようとしても無駄だということがわかったそうです。
そして、あえてプレッシャーをかけていくことに。
このプレッシャーの中で結果を出すしかない、そう割り切って付き合ったのだそうです。

受験で大事なことは、合格点を取ることではなく、「今持っている力を出し切る」ことです。
力を出し切って不合格だった場合、悔しいけれど、これが今の自分の力だと納得はできるでしょう。
力を出し切れずに終わるということが、一番悔いが残るものです。
結果よりも、まずは「力を出し切る」ことに専念する。
その際、プレッシャーから逃げるのではなく、そのプレッシャーと付き合う中で「力を出し切る」。
結果は出てしまうものですが、合否が出る前に試験が終わった瞬間に「やりきった」と思えること、まずはそこに集中して欲しいと思っています。

●解けない問題と遭遇した時にどうするか?
僕自身の体験談です。
ある大学入試の物理の問題。
得意だった力学分野で最初の小問からわからない。
これにはものすごく焦りました。
鼓動が速く、強くなり、それは結局試験終了まで続きました。
「力を出し切れなかった」、という後悔が帰り道でも家に帰ってからも残りました。
この後悔の念を翌日まで引きずってしまったわけですが、「こんなことを考えても、何も意味がない」と思い、気持ちを切り替えて、使える時間を全て使って、やれることは全部やろうと思いました。

起きている間はすべて勉強。
それは、「合格したい」という気持ちよりも、「やり残した気持ちが残って後悔したくない」という気持ちが大きかったように思います。

迎えた国立の二次試験。得意の英語の試験の第1問がさっぱりわかりません。
この時、冷静にこう考えました。

「これが解けなくても合否には影響しないだろう。だから、潔くこの問題は捨てよう。他の問題に集中して解いていくことが、今できるベストだ。もしそれでも、この問題ができなかったことで不合格になったとしても、何の悔いもない。できないことは見切りをつけたし、できることだけを全部やるしかないのだから」

穏やかな気持ちで、でも高い集中力を持続して、全ての試験を受けることができました。
終わった時点で、合否に関しての期待感も不安もありませんでした。
あの後悔に満ちた試験の日から自分に言い聞かせてきた「できることをすべてやるしかない」ということを実行できたことの清々しさを感じました。
結果は合格だったわけですが、仮に不合格だったとしても後悔はなかったと思います。

もしも、焦りと不安と後悔の入試がなければ、そして自分とじっくり向き合う時間がなければ、こんなメンタルになることはできなかったと思います。
解けない問題に遭遇したときに、「いさぎよく、自信を持ってその問題を捨てられる」、そして、「できる問題を確実に、力を出し切って解く」。
それは、残された時間で自分が過ごした時間だけが裏打ちしてくれるものです。
できることはすべてやってください。
それは、本番で自分自身を救ってくれる、何よりの精神安定剤です。