松田良一先生金曜特別講座メモ

2018年2月16日
高校生のための金曜公開講座
@東京大学駒場キャンパス

哺乳類の進化と妊娠―胎生の不思議―
松田良一先生
講義メモ

●哺乳類の出現
なぜ卵生から胎生に移行できたのかはまだよくわかっていない。

●カモノハシ
無核の赤血球が始まった

●ニワトリの発生
ヒヨコにも臍がある。

●メダワーの研究
自己と非自己の認識は遺伝的なものではなく、ある時期までのものを寛容するという仕組みを見つけた。

3つの仮説
①母体と胎児は胎盤によって解剖学的に隔てられ、母体の免疫応答が及ばない
②胎児組織の抗原性が未熟で、母体の免疫応答が起こらない
③妊娠の生理学的変化により母体の免疫応答が抑制される。

●胎盤の研究
異系交配の胎盤は同系交配のそれより大きい。

異系交配でも、免疫寛容をあらかじめ誘導しておくと、胎盤は大きくならない。
→胎盤は免疫学的障壁

ヒトでは、妊娠後期に血中フィブリノーゲン増加。
無フィブリノーゲン症の女性は必ず流産
→胎盤にフィブリンのレイヤーがあることが重要??

●妊娠母体の血液と組織に胎児由来細胞が混入する
なぜ、混入した胎児由来細胞は拒絶されないのか?

●マウスは並体結合で若返る!
コンボイとランドの研究 2005年
パラビオーシス
老マウスと若いマウスを「結合」する。
→老マウスが若返る

妊娠というのもある種パラビオーシス

●ヒトでは、胎児由来細胞が産後27年間も生着
27歳の女性の体に、染色体構成の異なる細胞が様々な組織から見つかった。

●最終出産が遅い経産婦は長寿
妊娠は胎児の生存を高めるとともに母体にも有益??
真胎生のメリット??

●ヒトの母乳には幹細胞が含まれている
これは、神経幹細胞やニューロンに分化する。

●免疫不全マウスの母とGFPマウスの父との交配
母マウスの脾臓に、GFP陽性細胞が見られた。
しかも、機能していることも確認できた。

●母子の絆
胎盤を介した細胞、DNAの移動
母乳を介した細胞の移動
母子間の移動のメリットとデメリット
そのメリットが有胎盤類の繁栄につながった。

※寛容の臨界期は種によって異なるのか?
マウスだと生まれた直後までは寛容になる。
ヒトでは胎児の時期のどこかだろう。
種によって臨界期は異なる。

 

●高校生へのメッセージ
ファラデーは、製本業者の奉公人だったが、ハンフリー・デイビーの講義を聞いて化学の魅力に惹かれた。
ファラデーはその時にとった300ページの講義ノートをデイビーに見せて助手として働きたい希望を伝えた。
そのファラデーは、その後、クリスマス講義や金曜講義を行った。
ロウソクの科学など。
ノーベル賞の大隅先生も若者に読んでほしい本としてロウソクの科学を挙げていた。

講演の夕べは、楽しませ、もてなし、同時に教育、啓発して、何よりも鼓舞(inspire)すべきだ(ファラデー)

文系、理系の区別はナンセンス
人類の知は全て同根

※高校生にこれだけは伝えておきたいということは?
できる限り本を読もう。
本が売れない時代とか言っているが、DNAによらない世代を超えた素晴らしい情報伝達手段を放棄しているようなもの。
もったいない。

●大野の雑感
松田先生の熱い思いがほとばしった講演会でした。
高校生のための公開講座の時に、何度も見たやりとりがあります。

「それはいい質問だねぇ!けれども、残念ながら、まだわかっていません。●●高校の●●さん、まだこれからたくさん時間があるから、この疑問をずっと温めておいて、いつかチャンスがあれば、あなたが研究して明らかにしてください。頑張って!」

「君たちは、もう研究も進んで生物のこともほとんどわかっていると思っているかもしれませんが、まだまだわからないことだらけ。だから、君たちがやれることは沢山あります。頑張って!」

松田先生のこのメッセージ、大好きです。
また、講義でも話されていた、デイビー→ファラデーと受け継がれていく「公開講座の精神」も素晴らしいと思いました。
公開講座は、「種まきの場」であるべきなのだろうと思います。
どこでどう芽吹くかわからない。
種自体がダメになってしまうかもしれないし、ある人の中ではずっと埋土種子のまま一生芽吹かないかもしれない。
でも、別なある人の中では、その種が芽吹いて、一気に何かが動いていくかもしれない。
そんな、可能性を忘れず、いつも心に響く希望を持って、聴衆を「鼓舞」するのが、公開講座の本質なのだと思います。

松田先生の「イズム」を思いっきり体感でき、大いに刺激を受けました。
僕も、松田先生からいただいた種をしっかり芽吹かせ、育て、次の種まきをしていけたらいいなと思います。