「楽しい記憶」の価値

ブルーバックスの「つながる脳科学」で利根川進さんが書いている章にこんな実験が紹介されていました。

オスマウスを1時間ほどメスと遊ばせる→「楽しい記憶」ができる→この記憶を持つ細胞を標識しておく。
マウスを1日1時間拘束し、慢性的なストレスを与える→「うつ」状態に。
「うつ」判定テストを実施。
①尻尾から吊るす→うつだと、もがかがない。
②砂糖水を与える→うつだと、水でも砂糖水でも変化がない。
うつ状態にあるマウスの海馬に光を当て、最初に標識した細胞を活動させる(つまり、「楽しい記憶」を人工的に想起させる)
→判定テストでは「うつ」と判定されなくなる!

書籍中では、将来的にこれをうつの治療に応用できないかと書かれていました。
実際にはうつの治療では、患者さんに楽しい記憶について話をしてもらうと、しばらくーうつ状態から脱出できるということがあるそうです。

これを読んで、「楽しい記憶」って大切だなぁと、心から思いました。
高校教育に携わる人間として、「人間的成長」というものに軸足を置き、「単に楽しいだけの体験」ではなく、「成長につながる体験」を大切にしてきました。
単に楽しいだけの体験をひたすら積み重ねてしまうと、むしろ「あの頃は楽しかったなぁ・・・」という後ろ向きな態度につながってしまうという危惧ももっています。
でも、「単に楽しいだけの体験」は、うつへの最高の予防策なのだと思うと、「一生涯にわたる幸せ」を考えたときに、これほど強力なものはないように思えます

学校という場は、人間的な成長ができる素晴らしい場です。
それと同時に、「最高に楽しい記憶」をつくれるような場としての価値も大きいのだと思います。
厳しさの中での成長もありますが、楽しみながら成長できれば素晴らしいと思います。
「楽しい体験」を積み重ねても、後ろ向きな人間にならないような道はあるはずです。
ただ、そこには体験に基づいた「気付き」が必要でしょう。
教員は、それを「教える」よりは、手助けをしてあげるのがよいなぁと思います。