壁画から考える問い

国立科学博物館のラスコー展に終了間際の駆け込みで行ってきました。
「2万年前にクロマニョン人がラスコー洞窟に描いた壁画」の特別展です。
このテーマでどんな展示なのだろうと思いましたが、ものすごく楽しい特別展になっていました。
「問い」を考える材料が満載です。

例えば、高校生に対してであれば、

⚫︎2万年前に洞窟内に壁画を描くには、どのような技術が必要?

という問いだけでかなり色々考えられるはずです。

⚫︎洞窟内をどうやって明るくした?
⚫︎どうやって壁に線を彫る?
⚫︎どうやって色をつける?
⚫︎どうやって手の届かないような高い位置に壁画を描く?
⚫︎結局、どんな道具が必要?それは何からどうやってつくる?

など、技術的なことだけでも、色々出てきます。
また、それだけにとどまらず、「芸術」というものに対して問いは深まっていきます。

⚫︎「芸術」はどのようにして生まれた?
⚫︎ラスコー洞窟の壁画は、芸術の歴史の中でどのような位置づけでどのような意義がある?
⚫︎なぜ特定の動物が描かれる?
⚫︎特徴的なデフォルメにはどのような意図がある?
⚫︎何のために壁画を描いた?
⚫︎なぜ洞窟の出口付近だけでなく奥の方にまでわざわざ壁画を描いた?

また、この企画展の展示物自体にものすごい力があります。

⚫︎洞窟の10分の1スケールの立体模型はどうやってつくる?
⚫︎洞窟全体のレプリカはどうやってつくる?

破格のスケールでのラスコー洞窟の復元に圧倒されます。
これは、クロマニョン人たちの知に触れるだけでなく、それに魅せられた人々の知に触れるものです。

また、展示自体は、洞窟の展示だけでなく、さらに広がりをもっています。

⚫︎クロマニョン人とはそもそもどういう存在なのか?ネアンデルタール人との違いは何か?
⚫︎壁画以外にどんな技術を持ち、どんな生活をしていたのか?
⚫︎現代のヨーロッパの人たちとの関係は?
⚫︎同時代の日本はどうだったのか?それぞれの地域の特徴は?

主催者から投げられる様々な問いが、見学中ずっと脳内を巡り、ぼんやりと色々なことを考えました。

「逃げ恥」効果もあるのか、会場は満員。
展示を見るのも大変でした。
「たかが壁画、されど壁画」
壁画を軸にこれだけ楽しい特別展になっていることに驚き、そして存分に楽しませてもらいました。

 

ラスコー展の後に、企画展、「小笠原国立公園」と「花粉と花粉症の科学」も見てきました。

小笠原は、色々な生物の解説パネルで楽しく学びました。
カタツムリ類の多様性の展示は、今まであまり意識したことがなかったのでとても興味深かったです。
また、

⚫︎島にいる生物はどのようにしてたどり着いたのか?
⚫︎大陸に近い島との違いはどのような点にあるか?
⚫︎大陸からそれまでいなかった生物学的やってくるとどんなことが問題になるのか?

などがクリティカルな問いなのだろうと思いました。

「花粉と花粉症の科学」は入り口でかなり立派な冊子を無料でもらえるので要チェックです。
内容も、花粉の進化や多様性など、花粉症だけではない話題も多く、とても楽しいです。
「花粉症による社会の損失」では、「花粉症の時期には花粉症がある人は、ない人に比べてコンピューターゲームの回答時間が長い」というデータが示されていました。
生徒の課題研究のネタでありそうなものですが、こういうデータもこういう企画展で引用されるということは、社会科学的にはある程度意味があるということなのかなぁなどと考えました。
高校生でも、色々な「研究」はできそうです。

エリートツリーや無花粉スギ、無花粉の原因遺伝子、子のう菌による花粉飛散防止など、授業でも使えそうな話題も豊富でした。