講演しない講演会

本日、武蔵大学 教職課程3・4年生合同授業の講演会に登壇(?)してきました。
タイトルは
「教える/習う」から「引き出す/学ぶ」への質的転換
です。
75分の持ち時間の大半をグループワークと、その後の問答で展開しました。


●目的について
目的 は、何かを「わかる」とか「理解する」という類のものではないだろうと考えました。
結果として


・「教育」について深く考える(一人で、皆で)。
・「探究したい“問い”」や「思考のヒント」を1つでも持ち帰る。


の2点を挙げましたが、この目的を軸にすると、学生さんも「今の話がよくわからない」とか、「ちゃんと答えを言ってくれなくてモヤモヤする・・・」という不安感や不満に囚われなくて済むだろうと思います。
それに、実際、「考える」ことと「問いを持ち帰る」ことができれば、それは何にも代え難い価値ある時間になるだろうと、自分でも納得できるものでした。


●グランドルールについて
グループワークを中心に展開するにあたり、やはり「グランドルール 」を確認しておいたほうがよいだろうとも考えました。
今回は、


・どんな発言でも否定しない。安心して発言できる雰囲気作りに貢献を。
・発言を強制しない(対話にならなければ、“一人で”深く考えてみてもよい)。


の2点を提示しました。


●グループ分けについて
教育実習を終えた4年生と、来年教育実習に行く3年生の合同授業ということで、その「価値」を生かすため、3年生と4年生が混ざるようにお願いしました。
また、3人がけのテーブルだったので、3人グループでお願いしました。
前後のテーブルでくっつけて5人ないし6人ということもあり得ると思いましたが、5分程度のグループワークを5つ、と計画していたので、グループサイズは4人以上はふさわしくないだろうと考えました。
学生さんはお互いに声をかけあって、うまくグループをつくってくれました。


●アイスブレイクについて
初めて一緒になる人と対話、というのはなかなかにハードルが高く、導入の小話の空気が重かったので、急遽アイスブレイクを実施しました。
テーマは、「この1週間であった楽しいこと、嬉しいこと」です。
学生さんの感想を見ると、グランドルールの提示があった上でアイスブレイクがあったので、とても雰囲気よくグループワークを進めることができた、というものがいくつも見られました。
ある程度有効に機能したようです。
約2分後に、「そのまま一つ目のワークに入っていきましょう」と指示しましたが、自然な空気で本題に入れていたようです。


「準備」ができたところで、本題のワークと問答に入りました。


●ワークと問答について
メインとなる問いである「学校の価値」や「教師の役割」について考察をしてもらうために、スモールステップ(のつもり)のワークを5つ用意しました。
1つ目のみをプリントに示し、後はぞの都度プロジェクタで投影していきました。
グループワークを5分やってから、僕と学生さんとの問答を5分。
これを1セットとして、5セット実施しました。


●最初の問い
ワーク①「やりたいこと」について
・なぜ教師になりたいのか?
・教師として実現したいことは何か?
・教師として最も大切にしたいことは何か?


●問答時の発言者について
「全体に情報を共有してくれる人」ということで、挙手で発言者を募集しました。
何人か自発的に挙げてくれる人もいましたが、パタっと手が挙がらなくなった瞬間もあったので、「自薦でも他薦でもいいです。つまり、この人いい意見持ってます!ということで推薦してもらってもいいですよ」と投げると、「じゃあ、◯◯君にお願いします」と他薦が飛び、それに対して該当の学生さんは見事に意見を述べてくれました。
その場で思いついた「他薦」というアイデアも、学生さんの感想を見る限りは肯定的に受け止められていたようです。


●問答時の工夫について
学生さんの発言に対して、自分なりに「クリティカルな問い」を返すように意識しました。
それは、武田先生からは、「コンテンツ」よりも「等身大の存在」を学生さんに見せることに意味があるというお言葉をいただいたことも一つの理由です。
どんな自分を見せるとよいか。
それは、自分自身の「提供価値」の一つである、「問答の中でクリティカルな問いを返す」という姿だろうと思いました。
※僕自身の「問い」が本当にクリティカルなものになっていた、ということではなく、そういうことを目指した、ということです。


僕自身は、高校生や大学生のときに「問う」ことに関して未熟だったと思います。
しかし、「クリティカルな問い」に大学の授業で出会い、とても刺激を受けましたし、周囲の友人からもそのような問いが飛び出すのを見て、また大きな刺激を受けました。
願わくば、そんな刺激を一人でも学生さんが感じてくれないものか、という思いもありました。
学生どうしの対話だけではなく、そこに僕自身が「問い」で切り込むことで、「問いによって思考がさらに深まっていける可能性」というものを見てほしいと思いました。
普段の高校での授業ではあまりこのような試みはしませんが、今回はあえてこのようにアプローチしてみました。


●ワーク②以降の問い
ワーク②「いい授業」について
・「いい授業」とは何か?
・なぜそれが「いい授業」だと思ったのか?
・「いい授業」から得たものは何か?今の自分にどうつながっているか?


ワーク③「良い経験」について
・学校に行って一番「良い経験」は何か?
・なぜそれが「良い経験」と思ったのか?
・「良い経験」から得たものは何か?今の自分にどうつながっているか?


ワーク④「授業」、「部活」、「行事」の違いについて
・それぞれは自分にとってどんな意味があったか?他の人にとってはどうか?
・それぞれの活動の「役割」に違いはあるか?
・それぞれの活動の「目的」に違いはあるか?


ワーク⑤「学校教育」と「教師」について
・「学校」の価値とは何か?
・教員とは何をする人か?


●学生さんから出た意見とそれに対しての問い
ワーク①
社会とつながるような、しっかりとした知識を生徒に伝えていきたい。
→かなりの「知識」はすでに高校の教科書や資料集に掲載されている。にも関わらず、それが定着しないのはなぜなのか?


ワーク②
「いい授業」って言われるとあまりピンとこないけど、「いい先生」って考えると、すぐ顔が浮かぶ。
 結局、「いい先生」がいて、その先生がやってる授業が「いい授業」だったと思う。
→「いい先生」とはどんな先生か?今の自分に何がつながっているか?


ワーク③
「良い経験」は部活で部長をやったこと。人間関係で色々な苦労があったが、だからこそ成長できた。
→部長をやらないと成長できないのか?部長以外の人間はどのように成長していたと考えられるか?思考のキーワードは「当事者意識」。


ワーク④
自分にとっては部活は成長でき、行事は楽しい思い出。授業にはネガティブなイメージしかない。勉強に関して自分は劣等生でコンプレックスを抱えていた。
→教職課程では「授業」について学ぶことが多いはず。何とか「授業」を意味あるものにするにはどうしたらよいのか?


ワーク⑤
学校には色々な人がいる。そういう色々な人が集まっている場は学校くらいしかないかもしれない。それは大きな意味がある。
→今の学校はそれを本当の意味で生かせているか?例えば、部活動が主な成長の場だとしたら、それは全体の多様性から抽出された集団での経験になる。さらに多様性を生かしていくにはどうすればよいのか?