試験の回答と生命倫理

定期試験が終了しました。
1年生の生物基礎で、「作物以外の品種改良の例を一つ挙げよ」という問題を出題しました。
品種改良とは何か、なども授業では触れていませんが、説明文から理解できるように作題しました。

 

様々な例を挙げてくれましたが、誤答で多かったのが、「人間の遺伝子を操作して、より良い赤ちゃんを誕生させる」というようなものでした。
かなりの人数がそう答えているので、単なる偶然ではありません。
おそらく、他の授業で扱われた題材なのだと思います。

この回答を見て、二つの課題を感じました。


一つは、「誤概念を獲得している」こと。
品種改良は、あくまでも「掛け合わせ」なので、種の壁を越えたり、自由自在に望む遺伝子や形質を持つ子孫を作れるわけではありません。
それに対して、遺伝子操作は、例えばある遺伝子を導入したりすることであり、種の壁も越えますし、望むような形質をピンポイントでねらって獲得させようとしています。
このあたりが整理できていないのではないかと思います。
※これは生物以外の授業内容が悪いというよりは、学習者側の課題やそもそもの教科書の扱い方の課題が大きい気がしています。

 

二つ目に、「差別偏見にもつながりかねない理解」につながっている可能性があること。
ヒトの遺伝子を自由に操作できるようになったとして、それを単純に「良いこと」と捉えてしまっているかもしれません。
でも、そのような価値観は差別偏見につながりかねません。
だから、このような生命倫理的な課題を含む内容は、「知識・理解」を獲得するだけでなく、それを材料に思考し、意見交換することが重要です。
つまり、「絶対解」ではなく、知識を思考のためのツールとし、一人で思考するだけでなく、対話を通じてそれを広げていき、それぞれの「納得解」に到達するプロセスが必要なのです。
センター試験で、「正答」のマークを一つ塗りつぶすのとは本質的に異なる営みです。

 

生物学ができることは何か。
生命倫理をどう扱うか。
「事実」と「価値観」を区別しながら、「価値観」に踏み込むのではなく、「価値観」と向き合い、思考できるような授業を、過度に恐れずに実践していくアプローチが有効だと考えます。