教えない部活動指導~畑先生の指導法

畑先生の指導理念
広島の県立高校で教員をされている畑喜美夫先生の著書「子どもが自ら考えて行動する力を引き出す 魔法のサッカーコーチング ボトムアップ理論で自立心を養う」を読みました。
「教えない部活動指導」について考えてみたいと思います。

 

この本は以下のような構成になっています。

 

第1章  子どもを大切にする
第2章  子どもが行動を起こすための環境づくり
第3章  子どもの変化に気づく
第4章  子どものやる気を高める
第5章  子どもの未来を見守る

 

畑先生の「ボトムアップ理論」を理解するために、いくつかの箇所を引用させていただきます。

 

(P15)これからの時代を生きていく子供たちにとって、指示待ちの人間にならず、自由な発想で発信したり行動したりすることを育むことが、大人の役割です。そうすれば大人になるにつれて的確な判断をしながら、問題解決をすることができるようになるはずです。

 

(P16~17)指導ミッションとして「自主自立の人間育成」(中略)、目標(ビジョン)につてはどんなことでもいいでしょう。たとえばは「県のベスト4に入る」や「魅力的なサッカーチームにする」でも構わないと思います。

 

部活動では、あくまでも「人間力の育成」が最上位というわけです。勝利至上主義とは一線を画した指導理念がここにあります。
ここから、畑先生は以下のような驚くべきシステムで部活動を運営しています。

 

(P20)選手登録、スタメン、システム、練習メニュー、選手交代などの決定を、監督ではなく選手が話し合って決めたり、各学年にキャプテンを決めて自分の学年を構築し、さらにリーダーのリーダーを育成することに重きを置きました。つまり、すべて「選手が主役」といえる環境を作りました。

 

(P23)「ボトムアップ」の指導法は、指導者から子供たちに指示、命令するのではなく、子供たちに自発的に考えさせて、認めてやり、まかせていく指導法なのです。こういった指導がいま、必要なのです。

 

そして、広島観音高校を赴任10年目にインターハイ初出場、初優勝に導いたのです。

 

僕が、最初に畑先生を知ったのは、桜宮高校の体罰事件の時、特集で「体罰のない部活動指導」で取り上げられているのを見たときでした。
体罰について、本の中では以下のように述べられています。

 

(P25)体罰で育った指導者は、体罰で指導してしまいます。体罰での成功体験をベースに体罰を正当化し、チームが勝つためとか、何とか大義名分をつけて、いかにも正しいことをしているかのごとく手をあげます。

 

(P26)大切なことは、「自主自立の人間育成」が目的ですから、そこにフォーカスすれば、体罰なんてありえません。

 

(P29)「ボトムアップ」は、サッカーのテクニックを指導するものではなく、子どもたちや選手の能力を認めてリスペクトする、いわゆる「心」の指導なのです。ですから、子どもが好きで、人を大切にする気持ちさえあれば、誰にでもできる指導法なのです。

 

こちらの記事でも体罰についての記述があります。
スポーツ現場の体罰や暴力問題はなぜ起こる? いま求められるサッカーコーチングとは
あくまでの「人間力育成」を目的として、信じて任せ、考えさせる指導法がベースにあるのです。

 

練習メニューもベンチ入り選手も子どもたちが決める
練習は、火曜と木曜日の放課後の全体練習のみで、月曜日、水曜日、金曜日は休み、土曜・日曜は試合。月・水・金は自主トレをしてもよいし、休みにしてもよいそうです。
強豪校で週2回しか練習がないとは驚きです。

 

また、試合などでチームの課題・弱点に気が付いていても、それを具体的に指摘するのではなく、ミーティングで選手自身に考えさせることが大事だと畑先生は言います。
あるときには1ヶ月近くかかることもあるそうですが、先生は考えることを促しただけ。
こうして選手自らが考え、PDCAサイクルを回していくことが大事だということです。
また、驚くべきはベンチ入り選手ですらも子どもたちが決めるということ。

 

(P103)広島観音高校では、試合前にキャプテンがスタメンを発表して自分の名が呼ばれなくて泣き崩れる選手や、「どうしてあいつが入って、俺が出れないんだ」と、キャプテンに喰ってかかる選手の姿を何度か目にしました。しかし、これまでにその調整に監督の私が介入したことは一度もありません。すべて、キャプテンが説得し、選手たちが話し合い、納得させ、選手全員の承諾を得ていました。

 

選手起用については、以下の記事も参考になります。
広島観音のよっちゃんにまつわる話
一部を引用します。

 

チームと選手の評価基準は1番に社会性。2番目に賢さ。3番目にうまさ。4番目に速さ。5番目に強さ。いい選手とは何か、いいチームとは何か。それを子供たちと共有している。だから何となしにうまいなというのではない。今大会もうまい選手が何人も漏れている。例えば日常生活が悪い子は全員漏れてます。それぐらいうちのチームは社会性を大事にして、人間力を大事にしているんだということを柳田が全面に出しているから、柳田も大変だと思う。県大会のときは漏れた選手から柳田も泣きつかれた。それを柳田は2〜3日かけて説明し納得させた。僕ら大人が出ればもっと早く簡単なんでしょうけど、それで大きな問題になったことはない

 

本の中には、選手起用に関するいくつかのエピソードも書かれていますが、全体を通じてこのあたりの話が個人的には一番興味深かったです。
「ボトムアップ理論」は『学び合い』との親和性が高いように感じますが、ベンチ入り選手決定というシビアな決断を迫られることはないので、そこをどうしているのだろうと興味があったからです。
選手間のヒエラルキーはどうなのか?その後に起こる摩擦をどうするのか?どこでどんな風に指導者が介入するのか?あるいはしないのか?
様々な疑問を持ちながら読ませていただきましたが、「人間力育成」が最上位という方針と合致した、ブレない指導をなさっていると感じました。勉強になります。
ちなみに、キャプテンも、監督が決めるのではなく、引退する3年生が話し合って決定するそうです。

 

貴重な現場での実践事例
鍋田先生から以前に、「部活動でやってたことを授業でもやればいい、ということに気付いてから腑に落ちた」ということをお聞きしていました。
僕自身は、中高時代はしっかりとした指導者の元である程度きっちりやらされる部活動を経験し、大学時代には学生による自律的な運営によるところが大きいサークル活動を経験することができました。
どちらも学びは大きかったように思いますが、大学時代のサークルに、畑先生にようなファシリテーターがいれば組織としての成長は加速したのだろうなと読みながら思いました。

 

『学び合い』の考え方にもとづく授業や学級経営の方法がある程度見えてきて、「じゃあ、バリバリの運動部で現実問題どんな指導をしていくとよいのか?」という現実的な疑問に対して、根っこの部分を共有しながら、現場の実践のアイデアに溢れた学びの多い本でした。
多くの方に知っていただきたい実践例です。
是非、お読みいただければと思います。

 

畑先生の指導に関しては以下の記事・動画も参考になります。

畑喜美夫×幸野健一 両氏が語る、いまサッカー界の育成に必要なこと -“選手が主役”の指導法「ボトムアップ理論」が子どもの自立を促す!-(前編)

畑喜美夫×幸野健一 両氏が語る、いまサッカー界の育成に必要なこと -“選手が主役”の指導法「ボトムアップ理論」が子どもの自立を促す!-(後編)

 

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